A:雨に唄うもの レイントリラー
コザマル・カでたびたび大きな被害を生む、赤目の毒蛙……それがレイントリラーだよ。得意とする水魔法で、ほかの生き物と遊ぶのが大好きなんだ。とはいえ遊びに付き合わされた方は、たまったもんじゃない。だって、レイントリラーが放つ水魔法に当たれば、手足くらい簡単にフッ飛んじゃうんだから。
もし戦うときは、鳴き声に注目するといい。奴らは自身の行動を声に出してしまう習性があるからね……それでなんとか、動きを読むのさ。
~ギルドシップの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
「あいつは凄く人懐っこくてなぁ。人を見かけるとジャレて来るんだよ」
年配の男は陽気に笑いながら言うと肘から先を失った腕に引っ掛けた手拭いで顔を拭った。
「…それ、ほんとにじゃれてるん?」
相方が堪らず年配の男性に聞いた。
「そうだよ、あいつがちっさい時からそうなんだ。最近は力が強くなっちまって今じゃ吹き飛ばされちまうけどな」
そういって笑う男性は右腕は肘から先、右足は膝から下を失っていて松葉づえを突いて歩いている。手足を吹き飛ばされて「ジャレてくる」と笑って言い切れる精神力は圧巻だ。
「俺があいつを見つけたのはまだオタマジャクシの頃でな。オタマジャクシっつったってもう俺よりでかかったけどな。金色のオタマジャクシを見つけるなんて、俺はなんて縁起がいいんだなんて自慢したもんだよ」
隣にいる相方が小さく「ええ…」っと思わず声を漏らしながらドン引きした。だめよ、堪えて。
男はこの地方の多数派民族であるハヌハヌ族の集落であるオックハヌにほど近い場所に小屋を建てて一人で暮らしていた。元は生物学者だったらしいが10年ほど前にレイントリラーという巨大蛙のオタマジャクシを発見して以来、この小屋でオタマジャクシの面倒を見ながら暮らしているという。
レイントリラーは全長5mを超える毒ガエルでエオルゼアに居たジャイアントトードよりも一回り大きい。
特徴的なのはその色で、全身は光を発するような目にも眩しい鮮やかな黄色の体に血が滲んでいるかのように見える真っ赤な目だ。遠目に見てもいかにも毒々しい。野生の世界では毒を持つ生物はその体色で「毒を持ってるから喰えませんよ」アピールするらしいが、このサイズの蛙を捕食する動物がいるとは思えない。
さらにレイントリラーはその生物的性質もあって水属性の魔法、とは言っても詠唱して唱えるタイプの魔法とは違うが、生来持って産まれた魔力で水を操って攻撃するのを得意としていて、その威力たるや、この男性の体から推して知るべし、その一撃は人の体など軽々と吹き飛ばす威力がある。
ドン引きしていた相方がなにか言おうとしているのをあたしは手で制して小さい声で言った。
「だめよ、はるか遠い東の国には肉食獣に手の指を食われて、自分の体が獣の一部になったと喜んだ人もいるくらい。この手の人はあたし達とは完全に価値観が違うの。」
相方は丸い目であたしを見ながらボソッと「変態やん…」というと言葉を飲み込んだ。
「毒ガエルだって聞いたんだけど、どんな毒をもってるの?」
あたしはそれでも何とか情報を得ようと男性に質問した。
「ああ、溶解毒に神経毒、あとは毒蛇と同じような血液を凝固させる毒も持ってる。俺もなんどか神経毒を喰ったがちょっと癖になっちまうから気を付けなよ」
いや、癖にはならないよね、普通。あたしも今更ながら若干だが引いた。
「あいつホント可愛くてさ、脳味噌と筋肉が連動してるみたいに自分の行動を声に出してしまう癖があってな。よく聞いてれば次にどうやってジャレようとしてるかが分かるんだ」
「へ?」
「いや、体を動かす前にどっちに行くとか、魔法撃つ、とか自分がどうしようとしてるのかを声に出しちゃうんだよ。それを聞き漏らすと俺みたいになっちまうけどな」
男はそう言うとまた声を上げて笑った。
「なぁ、あんたたち、あいつを狩りにきたんだろ?」
男はひとしきり笑った後、真面目な顔になって少し黙ってから聞いて来た。
「いいんだ、分かってる。どうせもう俺の手には負えないし、あいつが近所で度々大きな被害を引き起こしてることは知ってる。みんなに謝罪すべきなんだろうな、俺は」
そういうとテーブルの上にあった木製のカップを残った左手で煽り、またテーブルに置いた。
「子供のように育てた本当に可愛い奴だが…、魔物は魔物だ。本当なら俺自身で終わらせなきゃならんのだが…」
そういうと年配の男は大きく息を吸いながら椅子の上で姿勢を糺してあたしたちの方に向き直り頭を下げた。
「娘をよろしく頼む」
「メスだったの!?」
あたしと相方は同時に言った。